野上弥生子短篇集

20世紀のほとんどを生きた、私たちと同時代の作家野上弥生子(1885−1985)。
『真知子』『迷路』『森』などの骨太な長篇小説で知られる野上弥生子は、また、克明な観察力と鍛えぬかれた描写力による確かな人間造形が際立つ、練達の短篇作家である。
「或る女の話」「寂しい少年」「明月」「狐」など、秀作7篇を編年順に収録。
左翼運動に身を投じて転向した良家の息子菅野省三を主人公に,出身の異なる友人たちを配して,日本ファシズムの時代を苦渋にみちて生きた青年像を描きつつ,時代を動かした支配層の生活と思想をも作者の筆は精緻にとらえる。
昭和10年から敗戦直前までの社会を重層的に描くことに成功した骨太い大長篇小説。
菅野省三とともに,印象深い人物江島宗通。
藩主の後裔で能狂いのこの老人は,その地位によって華族はむろん,政・財界,軍部までの事情に通じ,貴族的高慢と正直さから彼らを忌憚なく批判する。
――やがて軍から脱走して延安へと向う省三には日本軍の弾が,宗通の上には焼夷弾の雨が……。
戦争で中断しながら20年をかけ,昭和31年完結。
進歩的思想と自己のおかれたブルジョア的環境のあいだで悩み続ける真知子は,左翼運動家にふと惑わされ,彼らとのつきあいに救いを求めようとする。
ブルジョア的環境からも身勝手で下劣な左翼運動家からも逃れた真知子は,ようやく曇りのない目で人間の真実を見つめられるまでに成長する。
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